きのね

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上野の口入れ屋の周旋だった。
行徳の塩焚きの家に生れた光乃は、
当代一の誉れ高い歌舞伎役者の大所帯へ奉公にあがった。
昭和八年、実科女学校を出たての光乃、十八歳。
やがて、世渡り下手の不器用者、病癒えて舞台復帰後間もない当家の長男、雪雄付きとなる。
使いに行った歌舞伎座の楽屋で耳にした、幕開けを知らす拍子木の、鋭く冴えた響き。
天からの合図を、光乃は聞いた…。
夢み、涙し、耐え、祈る。梨園の御曹司、雪雄に仕える光乃の、献身と忍従の日々。
雪雄の愛人の出産や、料亭の娘との結婚・離婚にも深くかかわる光乃。
一門宗家へ養子に行く雪雄につき従い、戦中の、
文字通り九死に一生の苦難をも共に乗り越えた光乃。
続く戦後の混乱期、雪雄の子を宿していると気づいた光乃の、
重い困惑と不安…。健気に、そして烈しく生きた、或る女の昭和史。



長い謹慎がとけて、七月大歌舞伎で復帰した海老蔵。昼は勧進帳の富樫
夜は鏡獅子、御小姓弥生、う~ン見たい! 
新聞の評のタイトル、「帰ってきた気品と輝き」とある。 
33歳の異才は、長う空白で得た答えを舞台で記すことでそれに応えた(犬丸治) 
チケットも完売で大成功なのでしょう。

この本は、当代海老蔵の祖父11代市川団十郎と妻千代の物語であり、80年代に
朝日新聞に連載されたらしい。
とはいえ、とうてい実名では記されるべくもなく、治雄は雪雄、千代は光乃、
幸四郎は玄十郎、海老蔵は鶴蔵などと、誰だかわかるように書かれていて、
この変換がややこしく、系図と首っ引きで読みました。
7代幸四郎の長男として生まれ、、高麗屋三兄弟といわれ、後に市川家に養子に入り
団十郎を襲名するまでの長いストーリーですが、上下2冊たっぷりと梨園のその
特殊な世界が描かれていて、興味津々で読みました。 
11代は、美男の誉れ高く、’水も滴るいいおとこ’と表現されるのを聞いたことが
ありましたが、その幼少期からの性格や生活すべてが事細かな描写で始まり、
以後、大人になるまで、襲名にいたるまで、周囲の人間関係、実にリアル。 
雪雄は、小さい頃、自転車の憶えも悪いようなドンくさい子どもでいて神経質、
癇癪もちで ’内蛤の外しじみ’
大きな病気(結核で4年療養、腸チフス、ヘルニアなど)
になることで役者としての危機も多い人だと知って驚きでした。
一方、光乃は女中としての役者の家で奉公しながら、雪雄をひそかに思い
決してさからうことのないけなげな女。
雪雄の結婚の破局、愛人の2人の子どもの死、などを目の当たりにしながら、
とうとう光乃が雪雄の子どもを独りトイレで産む。 
その息子が当代団十郎というわけである。
歌舞伎に詳しい人なら、そのあたりの事情は有名な話として聞き及んでたのでしょうが、
私はにわかファンなので、かなりセンセーショナル。
光乃さんは、出自のことで2人のこどもを生んだ後も長い間、正妻の籍には入れて
もらえず、それでも尽くしあげます。 
雪雄の癇癪たるや、今でいうところのドメスティック・バイオレンス。 
なんてことないことでも、気に入らないと暴れる、何でもひっくり返す
投げる、殴る、蹴る… これ、しょっちゅうのようで、
今なら、当然、テレビや週刊誌沙汰となること必至。
あの端正なお顔の方が、そんなことをする人だったなんて… 
はっきりいってショックでした。
ここで描かれてる暴君ぶりは、普通の人じゃとても耐えられないのでは? 
時代は戦争もはさんで、パパラッチなくとも役者にとっても苛酷なとき、
雪雄とて徴兵されますが腸チフスでふらふら、採ってもらえなかったり、
世の中は芝居どころではない。 
そんな雪雄が芽が出る前は、家もなく4畳半に家族4人で間借りしてた時代もあり、
今の人気歌舞伎役者の生活などとは雲泥の差。 
雪雄が人気絶頂になってからも日陰の身の光乃、籍を入れてもらえるのは
息子が小学校(青山学院)にあがるときでした。
繊細でわがままで、癇癪もちの雪雄を支えられるのは元女中の光乃さんだけ。 
雪雄も光乃さんなくしては、一日たりとも過ごせない人。 
雪雄が団十郎を襲名する頃には、光乃も病に倒れますが、雪雄は献身的に光乃を
見舞ういい夫になって、最後の数十ページは立派な役者にして
とてもいい夫、ホロリとなります。
洋行もする二人、そのときも誰の目からみてもいい夫として
模範的な人として振舞った雪雄さん。
長年の苦労の甲斐があった光乃さんですが、
それはそう長くは続かず、襲名後、数年の後、雪雄が病で没します。
光乃さんはその後、十年、家族を支えて雪雄のもとへ。 
何でか、こんなにもあらすじっぽくなりました、力んでます^^
この2冊は、詰め込まれてるものが多すぎて読むほうも大変ですが、
お書きになった宮尾先生はすごい、資料収集やリサーチ、半端ではないと思います。
フィクションでもあるのでしょうが、雪雄とその周囲の人たちがリアル。   
伝統芸能の世界の重圧が伝わってきて、
とても読み応えのある内容でした。
今昔の感はありますが、役者の世界、やはり常人ではないから役者なんでしょう。 
現海老さまは、このおじい様に似ているらしいですが、
復帰公演も好調、役者としての今後に期待したいです。
いつかまた見たいと思ってます。 
その通る声、姿、華もオーラもありますね。

きのねとは 柝の音   
  
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by kimikitak | 2011-07-23 22:23 |
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